図書館に訊け!
文献の調査方法(興味のあるトピックについて記述された本に、いかに効率的にたどり着くか)について書かれた本。人的調査法(レファレンスサービス)はもっと活用してもいいらしい(ちょっと尻込みするが)。
- 図書館(社史、展覧会図録)には、非流通本がある(から、本屋よりもいい)
- 資料を探す:以下は目録と呼ばれるもの
- 学校図書館:OPAC:校内の資料
- 国立情報学研究所:NACSIS webcat:大学・研究機関の資料
- 国立国会図書館:NDL-OPAC:国内の資料
- OCLC:WorldCat:世界の資料
- 検索キーワード:関連・類義表現や上位概念も含めることが大切(例:遺伝情報、DNA、ゲノム)。関連表現に通じるには、百科事典で調べるのも手。
- レポートや論文を書くには先行研究の調査(文献探索能力)が必要。
- 探索の基本ステップ
- テーマの決定:問題、分析観点、の決定
- 【レファレンス・ブック】テーマの基本情報と背景情報の調査:概要把握、キーワードの抽出
- 【目録や書誌】関連図書のリストアップ
- 【雑誌記事索引】関連論文、記事のリストアップ
- 【統計・白書】ファクト・データの収集
- 【ウェブ、動画】ネット検索で(主に文書以外の)資料を収集
- 資料の評価
- 文献探索の方法
- 芋づる式:読んだ文献に挙げられている参考文献をたどっていく。引用数の多い論文は重要度が高い。
- 索引式:レファレンス・ブックを使って探す。
- レファレンス・ブック:事実や本を分類した本、調査の始点で使われる。和訳:参考図書
- 事柄を調べる:辞書、事典、便覧、ハンドブック、地図、統計、年鑑、図鑑、Glossary(学会などが出す専門用語集)
- 百科事典:導入に読むと、手早く概要がつかめてよい。
- 百科事典は索引巻から読むと、漏れなく(芋づる式に関連事項を)調べられる。
- 複数の百科事典を比較すると、漏れなく調べられる。
- ウェブ上の百科事典:ジャパン・ナレッジ+
- 妹尾堅一郎
「 もっとも、この手の人を指導するのは簡単です。百科事典を調べさせるのです。ところが、そう説明すると、たいてい参加者たちは「なぜ?」といわんばかりの顔つきになります。なかには「もっと新しい知識を得ないと仕事になりません」と言ってくるビジネスマンすらいます。もちろん、最新の情報を得るため、専門書を調べたり市場で情報収集することは大切です。ただ、専門書や最新の報告書は、各分野の定説や通説の理解を前提に書いてあります。その分野について何の知識もない人間が、いきなり読んで理解できる代物ではないのです。市場調査についても同じです。業界の通説を知らないで、有効な情報収集などできるはずがありません。
だからこそ、百科事典を調べて各分野の定説や通説を得ておく必要があるのです。そもそも「専門家が、それぞれの分野の事柄についての定説を、だれでもわかるような簡潔な文章で紹介する」のが百科事典です。ビジネスリサーチの第一歩として、これほど有効なツールはないのです。ちなみに、百科事典が有効なツールであることは研究者や学生にとっても同じことです。実際、私が指導する「社会調査法」という授業では、必ず最初は百科事典を調べることから始めさせています。」 - 文献を調べる:おびただしい量が執筆されている原著を、その要点から分類し、接近しやすくしたものが書誌などである
- 目録:上述のOPACなど
- 書誌:書誌は分野ごとに発刊されるので、書誌の書誌も存在する(例:『日本書誌の書誌』『日本書誌総覧』)。
矢沢永一:彼は、書いても書いても拒否される論文投稿に、ある対策を施した。それは、書誌的な内容を、論文につけるということであった。研究者にとって、書誌は便利きわまりないものである。 - 雑誌記事索引:雑誌に掲載された論文や記事を分類したもの。
- 『JDream』:学振の運営する日本最大の科学技術文献情報データベース
- 『雑誌記事索引』:ネット版
- 『magazineplus』:『雑誌記事索引』に商業雑誌、学会年報などを加えたもの。『雑誌記事索引』よりも網羅的。ネット版のみ。
- 『大宅壮一文庫雑誌記事索引総目録』:大衆娯楽誌検索で便利。ネット版。
- 注意:ネット検索は「点」検索。キーワードをよく知っていないと、有益な資料にたどりつけない。文献調査は、より総合的な内容になるので、広がりが期待できるし、基本知識の獲得にもつながる。
- おすすめ本
- 『情報源としてのレファレンス・ブック』:レファレンス・ブックの一般的な使い方について記述されている。
- 『日本の参考図書』:レファレンス・ブックの一覧書
- 『自分でできる情報探索』
- 『大学生と「情報の活用」』
- 蓮實重彦『ユリイカ』2004.03号
「私がソルボンヌで指導を受けたロベール・リカット教授は、最初にこの人間はどの程度の実力かということを判断するために、二つのことを私に課しました。ひとつは、その論文に必要な書誌=ビブリオグラフィを書いて持ってきてごらん、と。それから、これから書くかも知れない主題について、すでにとってあるカードがあったら、それを見せてごらん、と。」 - 大串夏身「開放を阻むものは何か」『ず・ぼん』4号
「日本の大学の先生は自分の身の廻りにある資料や研究論文でしか研究しない、せいぜい資料を発掘に行く程度だ、イギリスでは大学の先生が目録・索引をよく調べて先行研究や類似の研究を読み込んでいるし、研究状況の把握にも熱心だ、日本の先生はあまり熱心ではない、他の人が同じような研究をやっていても知らないでいることがある、日本は大学の先生が変わらないかぎり大学図書館は変わらないだろうという。」 - 司馬遼太郎『風塵抄』
「いきなりむずかしい本を読んでもわからない。その場合のコツは長年の"独学癖"で身につけた。少年・少女用の科学本をできるだけ多種類読むのである。子供向けの本は、たいていは当代一流の学者が書いている。それに、子供むけの本は文章が明快で、大人のための本にありがちなあいまいさがない。そのあと大人のための本をよむと、夜があけたように説明や描写が、ありありとわかってくる。」 - 少年少女むけのシリーズ
- 岩波ジュニア新書
- ちくまプリマーブックス
- 井上章一『図書館に訊け!』中の井上真琴との対話にて
真琴「いったい、女性のたち立小便や下着を履かないノーパンの証明資料を、どのように集めておられるのですか。」
章一「私の考え方では、戦前のエロ情報・風俗出版物で役立つものは必ず発禁になっていると思うのです。ですから、『国立国会図書館所蔵発禁図書目録』をみて、国立国会図書館の発禁本コーナーに通いました。」 - 江刺昭子『女の一生を書く』
「現在地を特定にするには、次のような方法をとる。その人物のある時期の住所が手紙などで判明したら、その住所を現在の地図上でおおよそ推量し、該当地区の法務局に行って、まず土地台帳を閲覧する。土地台帳は、土地の所有者の変遷を記していると同時に、住所表示の変遷もたどれる」 - レファレンス・サービス
- 図書館員による、調べ物サポートのこと。レファレンス・カウンターに来た利用者は、大抵調べたいトピックは明確ではないため、多角的なインタビューによってそれを詰めていくことからサービスは始まる。インタビューを通じて、質問者は問題の本質や、調査すべきことが明確になっていく(本来、教員がやるべきことかも知れないね...)。そして、図書館員は、質問者に参考になりそうな資料や、資料を調べるための資料を伝え、サービスは終了する。
- 例:
永井荷風の研究をしているという女性「太平洋戦争の終戦日の前日に、ともに岡山県に疎開していた、永井荷風が谷崎潤一郎を訪ねている。二人は8/14から呑み語り明かし15日のお昼に別れたことまではつきとめた。荷風がどの電車に乗ったのか、時刻とルートを確定したい。何を調べればいいか?」
図書館員:『時刻表』の存在を調べるために『世界大百科事典』のオンラインデータベース「ネットで百科」を調べると、存在していることがわかった。「時刻表が存在しているのでこれを調べればわかるかも知れない。しかし、この古い時刻表をもっているところがあるかどうか。」と NACSIS Webcat を調べたが出てこない。列車や鉄道に関する資料を専門にしている機関を『専門情報機関総覧』で調べると、交通文化振興財団交通博物館というのがある。「ここなら古い時刻表を持っているかもしれません。コンタクトをとってみてください。」
結局、ここに時刻表があり、彼女の望む情報が入手でき、(査読の厳しいことで有名な)学会誌に論文が掲載された。 - 電子情報や電子的探索
- 実践女子大学図書館『インターネットで文献探索』:調査研究に役立つ世界のサイト
- 国立情報学研究所『JAIRO』:日本の学術機関に蓄積された学術情報(学術雑誌論文、学位論文、研究紀要、研究報告書等)を横断的に検索できる
- 上記目録の箇所で紹介したもの
- 注意:これらは図書館員らが作成した検索サイトであり、一般の検索エンジンとは一線を画す高評価・高信頼性を有するものである。google や yahoo を卒業して、これらのサイトを使いこなせば、信頼に足る文書が作成できる。
- 心得(卒業研究に向けて)
- 図書館で得られた情報は既知のものである。よって、調査はあくまでも研究の前段階であり、工学研究では、開発、計測、評価、考察などが必要になってくる。そこまできて、やっと創造性を発揮したことになる。次の至言をこころにとめておいた方がいい。
上野千鶴子『名人・苦労人50人の整理法をぬすむ』
「人の書いたものは二次情報ですから、みんなゴミですよ」 - 図書館員による資料の評価法
- 外形:ページ数と大きさ
- 目次構成:上野千鶴「本はまず、あとがきを読む。それから目次をにらむ。目次の構成をみれば、書き手のアタマの中は伝わる。」
- 索引
- 文献目録
- 初出の掲載誌のレベル:週刊誌などで掲載された後に、本として出版される場合、その雑誌によって、どんな種類の本なのかあたりがつく。
- 注のつけかた:参考文献のページまで記述されていれば、学術的な本
- 図表の典拠や充実度:信頼性に関係する
- 出版年、改版・改訂の頻度:長い間読まれていることは、信頼の証
- 付録・新機軸:復刻本の場合、プラスアルファがなければ、買う価値がない(図書館が本を購入する視点での評価法)
- 著者の信頼度
- 出版社の実績・編集者の実力:大学出版社、得意分野をもつ出版社(工学なら培風館とか)。出版時の本は、著者の文ではない。編集者が手を入れている。優秀な編集者が適切に手を入れた本は、元の本より出来がよい。
- 重訳か直訳か:アラビア語の原著を英語に翻訳した本を、さらに日本語に翻訳したものか、アラビア語の原著を翻訳したものか?
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